「お父さんはやっぱりお母さんのこと嫌い?」

濡れた声で訊ねてくる娘に、俺は何も言えなかった

妻がそこまで自分を思ってくれていたこと

自分の浅慮を子供に見透かされていたこと

そのことが子供の負担になってはいなかったか?

色々なことが寄せてきて、何も考えられなくなった

とりあえず一人にしてくれと娘に頼むのが精一杯だった

おそらく事件後の妻は世間一般から見ても非常に優秀だったと思う

生活費を多めに渡してたとはいえ一度も追加の請求が来たことはないし、全く無駄遣いもしてないようだった

苦手だった家事も克服したどころか、

子供は妻の弁当はすごく評判が良いと言っていた

子供たちのために離婚はしないと言ったが、立派に育ってくれたのは間違いなく妻のおかげだった

それならば妻を許すべきなのか?



だがそうしたら、あのとき感じた悲しみや怒りはどうなる

あの日の自分の気持ちを騙すのか?

理由があったとはいえ、妻は自分以外の男を一時的にせよ愛していたんだ

色々なことが頭をよぎった

さらに全く論理的ではないのだがここで許してしまうなら、最初から全てを受け入れていればもっと幸せになれたんじゃないか?

妻を許すということは、事件後からこれまでの人生は全て無駄だったんじゃないか?

果たして許したとして俺はどうしたら良いのだろうなどの苦しみもあった

結局また俺は結論を出すことができずに、灰色の日々を過ごしていた

意識的に何度か妻へと話しかけてみたものの、

ほんのわずか驚いた顔を見せた後に俺が惚れた笑顔を見せる妻を見ると

様々な感情が爆発的に体内を駆け巡り泣き出してしまいそうになり全くどうして良いのかわからなかった

そんなある日、仕事中に携帯電話が鳴った・・・

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