「……その女性を、頼みましたよ」
「……はい。ちゃんと、家に送り届けます」
最後に老人が一礼すると、ドアは閉まり、電車は駅を離れはじめた。
しばらく走ったところで、オラはあいちゃんを見る。
彼女は、依然としてオラの肩に顔を埋めたまま、動かなかった。
そんな彼女に、囁きかけるように、声をかけた。
「……あいちゃん、キミは、ちゃんと愛されているよ。そしてその人は、キミを待ってくれているよ」
「………」
「……だから、家に帰ろう。キミを待つ人のところへ。キミがいるべき場所へ。
オラも、一緒に行くからさ」
「……はい……はい……」
あいちゃんの口から、微かに声が漏れる。
電車の音に掻き消されて、よく聞こえない。……ただ、その声は、僅かに震えていた。
そして隠すかのように俯いた彼女の顔からは、雫が垂れ落ちる。
ポタリ……ポタリ……と、降り積もった雪が春の訪れと共に溶け出すように、零れていた。
それは、きっと暖かいものだ。そしてきっと、彼女の心から溢れ出たものだろう。
そんなオラ達を乗せた電車は、一定の速度で走り続ける。
……まもなく電車は、春日部に到着する頃だ。
その後あいちゃんは家に帰って行った。
入り口の立派過ぎる門のところには、大量のメイドさんと、優しそうな笑みを浮かべる女性、それと、初老の男性……
二人の姿を見た瞬間、あいちゃんは駆け寄り、男性の胸に飛び込んで泣いていた。
そんな彼女を、両親は優しく抱擁する。
……その姿を見て、少しだけ羨ましかった。それでも、オラの心は温かくなっていた。
家族のひと時に、部外者のオラがいつまでもいるのは無粋。
オラは静かに、一人家に帰った。
そして次の仕事の日……事件は、起こった。
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