男「実はうちのが、

その、妊婦でしてね。」

男が指差す先を見ると、

お腹を撫でながら

ニコニコ微笑む奥さん。



元来のんびり屋の旦那は、

「??」となってるが

あー、つまりは席寄越せって

ことねと私はピンときた。

いらっと来てたものの

出来るだけ穏便に

「すみませ~ん。

私達もあと四時間近く乗るもので。

もうすぐ車掌さんくるんで、

早めに空く指定席がないか、

聞いてみてはいかがです?」

と早口に捲し立てた。

その瞬間の奥さんの豹変が怖い怖い。

顔がすっと、

能面のように真顔になった。

うへぇ、と思いながらも、

「そうですかー」

と引き下がってくれたので、

旦那と私はほっとむねを撫で下ろした。

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